実直に、諦めないこと。それが心の経営の根源。
ピノキオ商事株式会社(岐阜県)
代表取締役:石田準一
本社:岐阜県 出店エリア:岐阜県 店舗数:28店舗
創業:平成3年 年商:41億円 従業員:178名(2019年3月現在)
薬局以外にもグループ会社で医療廃棄物の収集・運搬事業のほか、老人施設の運営、介護用品の販売業などを行い、地域の医療・福祉面をトータルサポートする企業として躍進しているピノキオ商事グループ。教えていただく会社の雰囲気には、ニコニコと朗らかな石田社長のお人柄が浸透しているようだった。
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石田社長のこれまでのキャリアを教えていただけますでしょうか。
最初は32歳で医薬品の卸会社を開業しました。その後昭和63年から医療廃棄物の収集・運搬事業を始め、平成2年に薬局事業を開始しました。社長はもう38年務めています。
医療廃棄物については医師会から頼まれたのがきっかけです。昭和62年に三重大学で、医師2名が死亡する針刺し事故がありました。そのとき県の医師会に呼ばれ、医療廃棄物を何とかしてほしいと恩師たちから依頼されたのが経緯です。今では岐阜県の約4割の医療廃棄物を弊社で扱っています。
最初はいろいろ勉強しましたね。容器にもいろんな種類があるので、全部つくって実験して。医療系初だったので、それが全国の標準になりました。それから医師会の先生たちから助言を頂きながら、平成2年に薬局業に進出しました。 -
事業を展開されている岐阜県の町の特徴も教えていただけますでしょうか。
岐阜県内で薬局はDS含め約1,000店舗、岐阜市内でも400店ほどあります。このあたりは特に激戦区で、全国のいろんなDSが進出してきています。ただこの周辺で”薬局”というと、確かに弊社の名前は上がりますね。
岐阜県も高齢者の割合が増え、家から出られない人も多いので、在宅業務は必須です。どこの店舗も施設在宅と個人在宅の両方を行っていますが、主には個人在宅での看取りが中心です。田舎なので1軒1軒の距離が離れているので、訪問の際時間はかなりかかります。
社員を信じて任せ、しっかりと還元する。
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店舗の特徴と、働かれている社員の皆さんの雰囲気についてはいかがでしょうか?
店舗数は全28店舗、薬剤師は現在83名です。1店舗に10名いるとして、3名は外来、7名は外に出ていくというバランスがいいと思っています。人が多くても余裕ができるよう、調剤室も大きくしています。社員の平均年齢は40.5歳で、元気でご活躍いただける方であれば年齢は関係なく採用しています。
28店舗を4つのエリアに分けていますが、社員同士の仲はものすごく良いです。あまり本社を介さずに、よほどのことがない限りそのエリア内、あるいはエリア間で話し合って問題解決してくれているので有り難いですね。どの店舗も素直な薬剤師が多いです。
離職率は1.3%くらいととても低いです。働きやすさの理由の一つは、部長や課長など中間の管理職がいないことでしょうか。優秀な人材が多いので、店舗のことは店舗に任せています。社員が薬剤師の知り合いを誘ってくれることもあり、中には親子や夫婦で勤めている社員もいますよ。 -
社員の皆さんと接する際に心掛けていらっしゃることはありますか?
売り上げのことも含め、うるさくは言いません。「お店は任せるので自由にやってください」と、自分の店と思って、従業員全員が一致団結して一生懸命やってほしいということを伝えています。僕は薬剤師ではありませんから「何かあったら責任は取るので、お店は任せたよ」と、お願いする姿勢です。
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”良い薬局”とは、社員が辞めないことだと思います。とても良い環境なんですね。
年2回の会議で社員にアンケートを取ったことがありますが、”会社の魅力を挙げてください”という項目に対してダントツに多かった回答が、給与が高いということと経営者の魅力でしたね。給与が高いのは少し考え直さないとなあとは思っているのですが(苦笑)、中間管理職がいない分、社員に還元した方がいいとも思っています。実際に頑張っていただいているので。
他の薬局から来た人は、ノルマが一番嫌だったと言いますね。弊社にはノルマはありません。
やっぱり人は褒めて育てるのが良いと思うので、褒める一方です。
人に好かれて持ちつ持たれつ。石田社長の”心の経営”について。
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御社ならではと思う特徴を教えてください。
先ほど申し上げたように、グループ会社で病院の医療廃棄物を扱う事業(メディカルヒーロン有限会社)や有料老人ホームを運営しています(株式会社ウイックス)。医療そのものは別にしまして、その周りのものを地域密着でトータルサポートさせていただいています。
一切営業はかけておらず、昔からドクターとのつながりがあって、開業されるときにうちを紹介していただいたり、逆指名されたりします。本当は全て受け入れたいところですが、会社としての体制もあるので、なかなか難しいところもあります。 -
先に医師会の先生のお話もありましたが、周囲の人とのお付き合いが深いのですね。
そうですね。名古屋商科大のMBAの講義で、ある企業と弊社の経営を対比される授業がありました。一方は巨大企業でとにかくお金を儲けること、かたやピノキオ商事は、組織は何もないけれど人がついてきて商売ができているという内容です。お金第一でもいいですが、”心の経営”をしないと企業は育たないという例としてピックアップしていただきました。この論法を書いたものが、現在名城大、慶応義塾大と南アフリカの大学で使われているそうです。
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会社経営されるうえでのポリシーは何かありますか?
薬局では営業はないとお話しましたが、他の事業で営業があるときに、いつも言うのは「諦めるな」ということです。
自分で会社を起こす以前、医療薬品の卸会社の営業として薬を売っていたときに、あるクリニックのドクターにずっと会ってもらえませんでした。当時僕も必死だったので、会っていただけるまで丸一年毎日通い続けました。 -
すごい粘り強さですね。なかなかそこまでできる人はいないと思います。
転機はとある日、いつものようにクリニックに通いドクターを待っている時間に、クリニックの駐車場に置いてあったゴミをスコップを借りて埋めたことです。今では不法投棄でダメですが。誰もが処理に困るほどのすごい量を一週間かけてすべて。当時それをドクターの奥様が見られたんでしょうか。「一度会ってみたら?」とドクターに言ってくれたみたいです。
そうして院長にお会いすることが叶い、大変気に入ってもらえクリニックに納品される医薬品の9割ぐらいを買ってもらうことができました。もう亡くなられたドクターも多いですが、そのご子息や後継者とはずっと付き合いが続いています。面白いですよね。粘り強くひたむきに努力を重ねることが人の心を動かすこともあるのだと実感しました。
薬剤師を目指す学生さんへメッセージ
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最後に、これから就職活動をされる薬学生さんへ一言お願いします。
実習に来られる学生さんもいますが、病院志向と都会志向の方が多いです。確かにこのあたりは田舎ですが、実はJRで岐阜駅から名古屋駅まで17分で出ることができます。ぜひ働く候補地として検討してもらえると有り難く思います。