「モダンな老舗カンパニー」
「おクスリ」のプロフェッショナル
田辺薬品株式会社(東京都)
代表取締役社長 田辺 正道
本社:東京都 出店エリア:東京都 店舗数:11店舗
設立:1937年 従業員数:80名
京王線の千歳烏山駅すぐ近くの店舗に取材に向かったが、入り口がマルシェのように新鮮野菜で埋め尽くされていた。薬局に来たのか?と思うくらいの不思議な感じになった。このような斬新な薬局を運営される田辺社長の薬局への思いを聞いてみた。
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マルシェのような入り口に驚きました
「ありがとうございます。」 “調剤薬局だからこういった店づくりをしなければ”という思い込みを取り払わないと、これからの時代は生き残っていけないですよね。近隣の皆様が便利で、気軽に薬局にお越しいただけるための工夫であり、地域社会で様々な業態とコラボレーションすることが必要だと感じて、この「薬局ランタン千歳烏山店」は新鮮野菜の販売を行っています。多摩地区で採れた地場野菜を扱う農家さんと取引させて頂いており、野菜の栄養素や食べ方に始まり、農家の方々の人柄や、野菜に対する想いも、定期的に研修会で勉強しています。ただ売るだけでなく、野菜が出来上がって売れるまでのストーリーにもこだわりを持って販売しているんです。
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薬剤師が野菜の陳列をされていましたが、素敵なことだと感じました
薬剤師だからといって、調剤や服薬指導だけをするというわけではなく、どのようなことでも率先して店舗運営に携わっていくことはいいことだと思っています。元々野菜販売をしているのも、私からの指示ではなく、ある社員が「やってみたい!」と提案してきてくれたのがきっかけでした。今では、スタッフが率先してレシピカードを作ったり、色とりどりのPOPや棚づくりの工夫などを行っており、「薬剤師だから」「事務だから」というのは関係なく、スタッフ総出でお店作りを行っています。これからも、スタッフの主体的な気持ちを大切にしていきたいと思っています。
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社長は先代から引き継いで3代目ですか
そうです。親から会社を継いだのですが、全く突然のことでした。元々はITメーカーでITコンサルを行っていたので、自分でもこのように薬局の代表をしていることは想像もしていなかったです。
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保険薬局だと、保険のこともあれば薬機法もあればと知識習得が大変だったと思いますがいかがでしたか?
勉強することがたくさんありましたが、私が最初に経営者としてしたことは、理念の策定からでした。
役員から一般従業員のみなさんそれぞれが大事にしてきたことをヒアリングすることから始め、会社として大事にしていきたいことを理念(ミッションステートメント)として策定しました。社長の一存で作った理念というよりは、社員のみなさんの想いをつないで作った理念をベースに会社の運営を開始することにしたのです。 -
ホームページにも社長のお考えが掲載されていたので、組織論やキャリア理論など学ばれていたのかなぁと思っていたのですが・・・
前職ではマーケティングやマネジメントに携わっていたので、元々の土台はありました。経営の根幹は、「人」「企業文化」です。太い幹を成長させるには、まずこの2つの根が張るようにすることが大切であるので、ここを大切にして行動を起こしていきました。ただ、薬局業界自体、このようなことに慣れていない人が多いので、最初は戸惑いがあったと思います。ヒアリング面談を実施することでさえ不慣れなので、辛抱強く分かり合えるまで頑張りました。3年前に代表を引き受けてから、ようやく最近になって組織の土台作りができたと思っています。
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人事制度の着手はいかがですか?
制度づくりも最初のうちは、なかなか馴染んでいかないものでしたね。スタッフの働きがいを追求していきたいので、主体性を発揮してもらうのに試行錯誤しました。気軽にスタッフ同士感謝を伝えあう「いいね!制度」を作り、お互いの良いところを見つけられるようにしたり、各店舗ごとに店舗コンセプトを作ってもらい、コンセプトに合わせた店舗づくりをしてもらったりと、仕事にやりがいを感じてもらい、夢を持って仕事をしてもらえるように、社内に自分の声が届きやすい、主体性を重んじた職場づくりを目指しています。
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薬剤師に期待することはどんなことですか?
当社では、カラダとココロの幸せを感じていただけるような日常生活を支えるさまざまなサービスのことを『おクスリ』と表現しています。この千歳烏山店で実施している新鮮な野菜を販売することも「おクスリ」の一つです。野菜を摂って健康なお身体で過ごしていただくことで喜んでいただくことも薬局サービスです。処方箋を受け取り「薬」を出すだけが仕事ではなく、ちょっとしたサービスが地域の皆様のココロを豊かにし健康で暮らせることを考えて行動してもらいたいと思っています。
ある別店舗では、地域の方の手芸品や、絵画を展示販売するギャラリーの取り組みを行っているのですが、ある方の絵画を飾ったところ、自分の絵画を見せに、ご近所さんを薬局に呼んでいる姿を見かけました。このように薬局が地域の皆さんのコミュニティになることだってあります。私たちの主目的は「薬」を正確に丁寧に迅速にお渡しすることかもしれませんが、視野を広げて、薬局という枠にとらわれず『何ができるか』を考えてもらいたいと思っています。 -
若い世代に期待することと、この先をどのようにお考えですか?
現在は、どの薬局も生き残りをかけて、変わろうとしています。当社もその一つです。薬局のサービスは処方箋を受け付けて薬を患者様に提供すること、在宅医療を必要とする患者様にお薬を届けることは、私たちが行うサービス提供としては当たり前のことで、それ以外の付加価値を考え新たなサービスで満足をしてもらいファンを増やしていくことが重要です。独自性のある「おクスリ」のサービスを一緒に考え、「モダンな老舗カンパニー」を創造してもらいたいです。薬剤師・薬局の顧客サービスとビジネスとして収益を上げられる輝く会社に。
専門薬剤師や認定薬剤師の資格が重要と考える方が多いと思いますが、田辺薬品ではそれ以上に、「お客さまをファンにするプロフェッショナル」としての価値を提供できる「達人」になってもらいたいと思っています。